引き続き「団地のつづき」プロジェクトの関連ブログです。
今回実際にリノベーションした藤山台の物件は「コーゾージヴィンテージ」とネーミングされました。
(リノベーション後、ダイニングリビングを眺める)
3DKで専有面積が60㎡強あるプラン、高蔵寺ニュータウンの中では面積の広いゆったりとしたタイプです。
貴重な既存図。ちょっとわかりづらいですね。襖で簡易的に仕切られていました。
南側隣地には住宅街が広がりますが、高低差のために視界を遮られる事なく遠くまで気持ちよく見渡す事ができます。また、3階というのもあって風が南北に通り抜けるとても恵まれた環境。
さて、
築50年経っているので「ふるさ」は否めません。でも、その「ふるさ」をどう解釈するのか?という点ではもう少し分析、分解して考えていく事も大事かな、というのがこの物件の出発点となっています。
設備、機械系に関しては「古さ=低機能」という直接的な評価が与えられてしまうのは致し方ない、かな。ですが、決して空間そのものや、この時代が作り上げた様式・デザインが「ふるさ」という一元的なイメージだけで括られてしまうのはもったいない。
“団地って古いところでしょ。“という漠然としたイメージは色々な物を見えなくさせてしまっているのでは。
(古い?)
ファッション、ワインや車などの世界では“ビンテージ、クラシック”といった古さと共に何らかの魅力を持ち合わせた状態を表現できる言葉がありますが、空間を表現する言葉としてはあまり一般的ではありません。
もっと観念的な場面では“ノスタルジック”なんて言葉が使われたりしますが、場所や物の物質的側面以上に心情的なものが含まれる傾向が強いですね。
以前「ALWAYS 三丁目の夕日」という映画では、再現された昭和30年代の町並みが懐かしさを呼び起こし反響となりました。
ちょっと頼りなさげな木造家屋がギュギュギュッとひしめき合う下町の様が当時の人々の距離感やコミュニティをも想起させたのでしょう。
では、団地に関してはどうなんでしょうか。
ちょっと前より「団地マニア・団地萌え」という価値観が注目される様になりました。写真集が発売されたり、ツアーが企画されたり。団地風景の日常的な何気なさ、大きな空と広々とした景色、たくさんの植栽や生活の営みがジワジワとにじみ出てくる様な空気感は多くの人を魅了するのだとおもいます。
(藤山台団地を眺める)
“ノスタルジック”って言っちゃうとまだちょっと大げさな感じですが、1970年代の入植から50年間分の営み、蓄積があるエリアしか持ち得ない空気感、穏やかさや柔らかさを感じます。
モダニズム的力強さや均質的な表情を持ちつつも、ここかしこからヒューマンスケールが滲み出てくるニュータウン。
入り口のちょっとくぐり抜ける感じの寸法感、窓の大きさや隣接する世帯同士で共有する階段室、といった要素がどこか昔の町並みの要素と被るのかもしれません。
(北側立面と階段室入り口、庇)
現代のマンションが持ち得ない安心感を覚えるのはそんな所からなのかもしれません。
“団地妻“なんて言葉も一時期流行りましたね。ま、それは置いておいて。
このプロジェクトには『団地のつづき』という素敵な名前が与えられています。
担当する事になった区画をリノベーションするにあたって、この団地のこれまでとこれからを繋ぐ事、積み重なった時間の渋さをより掬い上げる事を目的として『コーゾージヴィンテージ』を企画しました。
”ヴィンテージ(ビンテージ,Vintage)は、完成度が高い、古くて価値が高い、年代物のアイテム、また商品。ファッションでは、古着のことなどを意味する。 「由緒ある、古くて価値のある」といった意味で、もともとは、当たり年のワインをさす。”
どんなリノベーションを行ったのか?具体的なお話をしようと書き始めましたが、またしても前段が長めになってしまったので具体的な話はまた次回に。
(おしまい)